文献
通信機器の使用による聴力低下およびコミュニケーションエラーに関する文献調査
我が国では、コールセンター業務や電話交換業務のように、定常的にヘッドセットやイヤホンなどの通信機器を使用している職場は決して少なくない。鉄鋼業や石油化学工業など一部の業種では、騒音職場においても無線機にイヤホンをつけた通信機器を使用して労働者間でコミュニケーションをとる必要のある職場が存在する。そのような職場では、現状として、非通信側の耳のみ耳栓を着用したり、通信機器とイヤマフを併用したり、防音保護具の着用が困難な場合はイヤホン自体に遮音性能を期待したりしている。しかし、これらの方法で通信機器が伝える音や環境騒音から聴力が保護されているのか疑問を持ち、騒音環境で使用する通信機器の遮音性に関する研究を行うにあたり、これまでどのような研究があるのか調査することにした。また通信機器を使用している事業場の産業医や安全衛生スタッフなどが、簡便に検索が可能で、内容を理解して現場に応用できるような体系的レビューを作成することを目的とした。
本調査研究は、「騒音環境で通信機器を使用する労働者の聴力低下及びコミュニケーションエラーの防止に関する研究(産業医科大学高度研究 H20-4号)」による補助を受けて実施した。
聴力障害に関する文献の検索式
PubMed【207件】(earphone OR earphones OR headphone OR headphones OR “communication device” OR “communication devices” OR headset OR headsets OR earplug OR earplugs) AND (“temporary threshold shift” OR “hearing loss” OR “acoustic shock”)
JMedPlug【156件】 医中誌【69件】(耳栓 OR イヤホン OR ヘッドホン OR ヘッドセット OR 通信機器)AND(聴力障害 OR 聴力低下 OR 難聴 OR 騒音性難聴 OR 音響外傷 OR TTS)
コミュニケーションエラーに関する文献の検索式
PubMed【64件】(earphone OR earphones OR headphone OR headphones OR “communication device” OR “communication devices” OR headset OR headsets OR earplug OR earplugs) AND (intelligibility OR “speech intelligibility” OR “sentence intelligibility” OR “word intelligibility”)
JMedPlug【179件】 医中誌【16件】(耳栓 OR イヤホン OR ヘッドホン OR ヘッドセット OR 通信機器)AND(コミュニケーションエラー OR コミュニケーション OR 言語明瞭度)
検索された文献について専門家による抄録の判読を行い、本研究の趣旨と一致する内容であった文献を選定し要約した。なお、著者については、筆頭者のみの記載とした。
聴力障害(66件)
- 文献数は、1985年~1989年に最も多い。 (図1)
図1 通信機器の使用に関する聴力障害に関する文献の年次推移
- 聴力障害(聴力低下、音響外傷、騒音性難聴、TTSなど)が発生した原因 (図2)
図2 通信機器の使用による聴力障害の要因別件数
- 研究対象者は、中学生、高校生、大学生の若年層が多い。(表1、表2)
年代 | 件数 | 要因(内容) | 調査国 | 対象者数 | 掲載誌 |
---|---|---|---|---|---|
1990~1994 | 8 | 酪農家 | アメリカ | 49名 | Am J Ind Med. 1990 |
ヘッドホン使用 | 日本 | 155名(22~29歳) | Nippon Koshu Eisei Zasshi. 1990 | ||
アクティブノイズキャンセリングシステム | ドイツ | Laryngorhinootologie. 1991 | |||
ヘリコプターパイロット | セルビア | 46名 | Vojnosanit Pregl. 1991 | ||
ヘッドホンステレオ | アメリカ | (1)567名(2)433名 | J Appl Behav Anal. 1991 | ||
CDプレーヤー | フランス | 12名 | Bull Acad Natl Med. 1992 | ||
ヘッドホンからの音楽聴取 | ドイツ | 681名(10~19歳) | HNO. 1994 | ||
飛行機パイロット | ドイツ | HNO. 1994 | |||
1995~1999 | 3 | ヘッドホンの位置調整による改善 | フランス | 300名 | Audiology. 1995 |
振動と騒音によるTTS | 日本 | 19名 | Int Arch Occup Environ Health. 1997 | ||
音楽聴取(ディスコ、イヤホン音楽) | イタリア | 391名(18~19歳) | Med Lav. 1997 | ||
2000~2004 | 9 | 集中治療室でのノイズキャンセリングヘッドホンの使用 | アメリカ | 43名 | Crit Care Med. 2000 |
ヘリコプター乗組員 | オランダ | 28名 | Aviat Space Environ Med. 2001 | ||
石油プラント | サウジアラビア | 368名 | Ann Occup Hyg. 2001 | ||
余暇の騒音(ヘッドホン音楽、ディスコ、コンサート) | ドイツ | MMW Fortschr Med. 2002 | |||
コールセンターのオペレーター | イギリス | 15コールセンター | Ann Occup Hyg. 2002 | ||
通信用耳栓 | アメリカ | Mil Med. 2003 | |||
ラジオアナウンサーのヘッドホン使用 | オーストラリア | 12名 | Noise Health. 2003 | ||
CDプレーヤー | アメリカ | KEMARマネキン | Ear Hear. 2004 | ||
バック時の車両アラーム音 | アメリカ | 12名 | Hum Factors. 2004 | ||
2005~2010 | 6 | 強大音響曝露 | オーストラリア | 103名 | Acta Otolaryngol Suppl. 2006 |
電話による音響外傷 | イギリス | 103名 | J Laryngol Otol. 2007 | ||
コールセンター | 台湾 | 27名 | Percept Mot Skills. 2008 | ||
イヤホンからの音楽聴取 | イタリア | マネキン | Med Lav. 2008 | ||
音楽プレーヤー | アメリカ | 1016人(大学生) | Ear Hear. 2008 | ||
ノイズキャンセリングヘッドホンを用いた聴力検査 | カナダ | 37名 | Laryngoscope. 2008 |
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表1 通信機器の使用による聴力障害に関する文献の詳細(Pub Med)
年代 | 件数 | 要因(内容) | 対象者数 | 掲載誌 |
---|---|---|---|---|
1980~1984 | 6 | 音楽聴取 | 1104名(高校生) | 耳鼻咽喉科 1981 |
造船所のステレオ聴取 | 3414名 | 産業医学 1981 | ||
ヘッドホン | 57名 | 耳鼻咽喉科 1982 | ||
ヘッドホン、イヤホンの使用 | 66名 | 耳鼻咽喉科 1982 | ||
テレビのイヤホン聴取 | 1名 | 耳鼻咽喉科展望 1983 | ||
ヘッドホン | 4486名(高校生) | 医薬の門 1983 | ||
1985~1989 | 16 | ディスコ難聴、コンサート、ヘッドホン | 83名 | Audiology Japan 1986 |
騒音下ヘッドホンによる音楽聴取 | 7名 | 産業医科大学雑誌 1986 | ||
ヘッドホン | 1625名(高校生) | Audiology Japan 1986 | ||
音楽性強大音 | 産業医科大学雑誌 1986 | |||
大音圧の音楽聴取 | 82名 | 日本音響学会誌 1986 | ||
ヘッドホンオーディオ | 日本音響学会誌 1986 | |||
ヘッドホンによる音楽聴取 | Audiology Japan 1986 | |||
ヘッドホン、ディスコ | 医療 1986 | |||
ヘッドホン使用による音楽聴取 | 4486名 | 学校保健研究 1986 | ||
騒音下でのヘッドホン使用 | 7名 | 人間工学 1987 | ||
強大音響による音楽聴取 | 3000名(大学生・高校生) | 耳鼻咽喉科臨床 1987 | ||
ヘッドホンによる音楽聴取 | 800名(中学生) | 耳鼻と臨床 1987 | ||
強大音響による音楽聴取 | 1400名(高校生) | 耳鼻と臨床 1987 | ||
ヘッドホン使用 | 1371名(中学生) | 大阪教育大学紀要 1989 | ||
ヘッドホン使用と楽器演奏 | 3247名(大学生) | 全国大学保健管理研究集会報告書 1989 | ||
学校 | 学校保健研究 1989 | |||
1990~1994 | 6 | ヘッドホン使用 | 2217名(中・高校生) | 岡山医学雑誌 1990 |
ヘッドホン使用 | 155名 | 日本公衆衛生雑誌 1990 | ||
ヘッドホン、ロック・ディスコ | 臨床検査 1990 | |||
市民生活による急性騒音性難聴 | 108名 | Audiology Japan 1992 | ||
民間航空機運航員 | 1937人 | 耳鼻咽喉科展望 1991 | ||
ヘッドホンによる音楽聴取 | 82名 | Jpn Audio Soc J. 1993 | ||
1995~1999 | 4 | ヘッドホン | 2641名(中・高校生) | 耳鼻咽喉科臨床 1995 |
ヘッドホンステレオ | 100名 | 環境衛生工学研究 1995 | ||
ヘッドホンステレオ | 20名 | 環境衛生工学研究 1996 | ||
ヘッドホンステレオ聴取 | 100名 | 日本音響学会誌 1997 | ||
2000~2004 | 4 | 航空機騒音 | 小児科 2000 | |
ヘッドホン | 5名 | 環境衛生工学研究 2000 | ||
強大音(ディスコ、ヘッドホン) | Med Pract. 2001 | |||
ノイズコントロールイヤマフと骨伝導マイクロホン | 13人 | J Occup Health. 2002 | ||
2005~2010 | 4 | ヘッドホン | 産業保健人間工学研究 2005 | |
ヘッドホンによる急性音響外傷 | JOHNS. 2006 | |||
航空自衛隊 | 航空医学実験隊報告 2006 | |||
金融業者 | 1名 | 医道の日本 2009 |
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表2 通信機器の使用による聴力障害に関する文献の詳細(J Med 医中誌)
- 掲載誌は、“Audiology Japan”が最も多い。
コミュニケーションエラー(23件)
- 文献数は、聴力障害と比較して少なく、1995年~1999年に最も多い。(図3)
図3 通信機器の使用によるコミュニケーションエラーに関する文献の年次推移
- 掲載誌は、“Aviat Space Environ Med.”が最も多い。(表3)
年代 | 件数 | 要因(内容) | 調査国 | 対象者数 | 掲載誌 |
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1975~1979 | 2 | 民間航空の通信ヘッドセットの語音明瞭度 | アメリカ | 8名 | Aviat Space Environ Med. 1978 |
通信ヘッドセットの語音明瞭度 | アメリカ | Aviat Space Environ Med. 1979 | |||
1985~1989 | 2 | 無線通信の影響 航空機パイロット | ドイツ | HNO. 1987 | |
飛行機パイロットの語音明瞭度の改善 | ドイツ | Laryngorhinootologie. 1989 | |||
1990~1994 | 1 | ノイズキャンセリングヘッドセットと他の比較 | アメリカ | Hum Factors. 1994 | |
1995~1999 | 5 | 語音明瞭度検査 | アメリカ | Ear Hear. 199 | |
ヘリコプター騒音下の語音明瞭度 | ノルウェー | 10名 | Aviat Space Environ Med. 1996 | ||
ノイズキャンセリングヘッドホンの開発 | オランダ | Noise Health. 1998 | |||
航空機内の女性音声の語音明瞭度 | アメリカ | Aviat Space Environ Med. 1998 | |||
高度環境の航空機騒音下の語音明瞭度 | ノルウェー | 8名 | Aviat Space Environ Med. 1999 | ||
2000~2004 | 2 | ヘリコプターパイロット | ノルウェー | 9名 | Aviat Space Environ Med. 2001 |
3次元オーディオディスプレイの設計 | カナダ | Aviat Space Environ Med. 2001 | |||
2005~2010 | 1 | 電子通信機器による合成音声の語音明瞭度 | アメリカ | Augment Altern Commun. 2006 |
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表3 通信機器の使用によるコミュニケーションエラーに関する文献の推移(Pub Med)
年代 | 件数 | 要因(内容) | 対象者数 | 掲載誌 |
---|---|---|---|---|
1980~1984 | 1 | 補聴器 | 20名 | 耳鼻咽喉科臨床 1984 |
1985~1989 | 3 | 明瞭度試験 | 育英工業高等専門学校研究紀要 1986 | |
語音明瞭度検査 | Audiology Japan 1989 | |||
加齢 | 人間工学 1989 | |||
1990~1994 | 1 | 感音難聴 | 806名 | Audiology Japan 1990 |
1995~1999 | 1 | 防音保護具装用時 | 人間工学 1995 | |
2000~2004 | 1 | 骨伝導ヘッドホンによる3次元立体音響 | 日本バーチャルリアリティ学会大会論文集 2004 | |
2005~2010 | 2 | 防音保護具と語音明瞭度 | 産業保健人間工学研究 2006 | |
マイクロホン内蔵耳栓型イヤホンの使用 | 13名(26~46歳) | J Occup Health. 2008 |
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表4 通信機器の使用によるコミュニケーションエラーに関する文献の推移(J Med 医中誌)
- 1970年代
- 航空機内での通信に関するコミュニケーションエラー
- 語音明瞭度を改善するための開発や改善方法
- 1990年代
- ノイズキャンセリングヘッドホンなどの開発
- 環境(高度、ヘリコプター騒音)の違い